賃貸ビル事業の業況は「良い」が65%|オフィス移転で注意したい賃料・築古ビルの動向

オフィス市場では、賃料や建築コスト、設備更新費などの上昇が続いています。こうした環境のなか、ビルオーナーは賃貸経営をどのように捉えているのでしょうか。
ザイマックス総研が2026年に実施した「ビルオーナーの実態調査2026」では、賃貸ビル事業の業況について「良い」「やや良い」と回答したビルオーナーが65%に達しました。一方で、収入の増加に対して支出の増加が上回っており、賃料改定や設備更新の見直しなどの対応も進められています。
今回は同調査の内容から、ビルオーナー側の動向と、オフィス移転を検討する企業が押さえておきたいポイントを解説します。
賃貸ビル事業の業況は「良い」が65%
今回の調査は、ザイマックス総研が早稲田大学建築学科の石田航星研究室と共同で実施したものです。
調査対象は、東京商工リサーチのデータから抽出した2万1,520社。有効回答数は855件でした。売上1,000万円以上、東京都については3,000万円以上で、賃貸事務所業を主な事業、または2番目の事業として登記している企業を対象としています。
直近1年間の賃貸ビル事業の業況について、「良い」と「やや良い」を合わせた回答は65%でした。一方、「悪い」「やや悪い」の合計は6%にとどまっています。
この結果からは、ビルオーナー側から見た賃貸ビル事業が、全体として比較的良好な環境にあることがうかがえます。
収入以上に支出が増加
一方で、賃貸ビル経営におけるコスト増は無視できません。
直近1年間の収入について「増加した」と回答した割合は37%でした。それに対して、支出が「増加した」と回答した割合は63%に達しています。
建物の維持管理や設備更新などにかかるコストが増えるなか、ビルオーナー側も収益を維持するための対応を迫られていると考えられます。
実際、支出増への対策として最も多かったのが「賃料の値上げ」で、52%と半数を超えました。
そのほか、「設備更新のタイミングの見直し」が27%、「特に何もしていない」が23%となっています。
オフィスを借りる企業にとっては、今後の移転先を検討する際に、賃料改定の可能性も含めて中長期的なコストを確認することが重要です。
築古ビルは「改修の有無」がポイントに
今回の調査では、築30年以上の築古ビルについても分析されています。
これまでに改修を実施したことがあるビルオーナーは64%でした。一方、改修実績が「ない」と回答した割合は約36%となっています。
さらに、改修実績の有無によって直近1年間の業況を比較すると、改修実績が「ある」ビルオーナーでは「良い」「やや良い」の合計が70%となりました。
これに対して、改修実績が「ない」ビルオーナーでは59%でした。
もちろん、改修の有無だけで業況が決まるわけではありません。しかし、築年数の経過したビルでも、適切な改修によって建物の価値を維持・向上させることが、賃貸経営において重要な要素になっていることがうかがえます。
改修計画は「必要性を感じるが未定」が58%
一方、今後の改修計画については、「必要性は感じるが、時期や内容は未定」という回答が58%と過半数を占めました。
つまり、ビルの老朽化や設備更新の必要性を認識していても、具体的な改修時期や内容まで決まっていないオーナーが多いということです。
また、これまで改修を実施しておらず、今後の計画もないビルオーナーでは、約7割が「当分はこのままの状態で維持していく」と回答しています。
その理由として最も多かったのが「ビルに特に問題がないため」で71%。次いで「工事に多額の投資が必要であり、資金面に不安がある」が31%、「後継者の判断に委ねる予定」が19%でした。
オフィス移転では「築年数」だけで判断しない
今回の調査結果から、オフィス移転を検討する企業が意識したいのは、物件の築年数だけでビルの良し悪しを判断しないことです。
築30年以上のビルでも、設備更新や共用部の改修、耐震対策などが適切に行われていれば、快適なオフィス環境を確保できる可能性があります。
逆に、築年数が比較的新しくても、今後どのような設備更新が予定されているのかによって、入居後の環境やコストが変わる可能性があります。
物件を比較する際には、築年数だけでなく、直近の大規模修繕の実施時期、空調やエレベーターなどの設備更新状況、今後の改修計画なども確認しておくとよいでしょう。
また、賃料についても現在の金額だけを見るのではなく、契約更新時の賃料改定や共益費の変更条件などを確認することが重要です。
ビル選びは「現在」と「将来」の両方を見る
今回の調査では、賃貸ビル事業の業況が良好である一方、ビルオーナー側では支出増への対応として賃料値上げなどが進んでいることが分かりました。
企業がオフィス移転を検討する際には、提示された賃料だけで判断するのではなく、設備や改修状況、契約条件などを含めて総合的に比較する必要があります。
特に築古ビルについては、改修によって価値を維持している物件と、改修計画が明確でない物件とでは、入居後のオフィス環境に差が出る可能性があります。
移転先を探す際には「今、快適に使えるか」だけでなく、「数年後も安心して使えるか」という視点を持つことが、失敗しないオフィス選びにつながるでしょう。
担当マーケターの視点から
マーケティングの視点から今回の調査を見ると、「オフィスの価値をどう伝えるか」という点が今後さらに重要になると感じます。ビルオーナーにとって、単純に築年数や駅からの距離を訴求するだけでは、物件間の差別化が難しくなっています。改修によってどのような働く環境を実現したのか、設備をどう更新したのか、入居企業にどのようなメリットがあるのかまで伝えることが、物件の選ばれやすさにつながります。
一方、企業側も「新築だから安心」「築古だから避ける」という判断から脱却する必要があります。重要なのは、物件そのもののスペックだけではなく、自社の働き方や従業員体験との相性です。
特にハイブリッドワークが定着した現在では、必要以上に広いオフィスを借りるよりも、立地や共用スペース、会議室、設備などに予算を配分するという考え方もあります。賃料上昇局面だからこそ、オフィスを固定費としてだけ見るのではなく、採用や生産性、企業ブランディングにつながる「投資」として評価することが重要になりそうです。
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