コクヨ新本社に学ぶオフィス移転戦略|「会社に行きたくなるオフィス」が組織を強くする理由

テレワークやハイブリッドワークが定着した現在、多くの企業がオフィスの在り方を見直しています。

「出社率が下がり、オフィスが十分に活用されていない」「優秀な人材の採用や定着にオフィス環境が影響している気がする」「移転するなら従業員満足度も向上させたい」このような課題を抱えるバックオフィス担当者も少なくないでしょう。そんな中、文具・オフィス家具メーカーとして知られるコクヨが、大阪・うめきたエリアの「グラングリーン大阪」へ本社を移転し、大きな注目を集めています。
新本社「KOKUYO HQ」は、単なる執務スペースではなく、「会社に行きたくなる体験」を設計したオフィスとして構築されました。今回は、コクヨの新本社から見えてくる、これからのオフィス移転戦略について解説します。
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約90年ぶりの本社移転が意味するもの

コクヨにとって今回の移転は、約90年ぶりとなる大きな転換点です。これまで大阪市東成区の本社と梅田オフィスに分散していた機能を、うめきたエリアに集約しました。移転先となったグラングリーン大阪は、近年「大阪最後の一等地」とも呼ばれる再開発エリアです。
近隣には製薬大手や大手メーカーの本社機能移転も相次いでおり、関西を代表する新たなビジネス集積地として注目されています。コクヨはこの場所を単なる本社ではなく、「人と企業、社会とのつながりを再定義する公開実験の場」と位置付けています。つまり今回の移転は、不動産戦略だけではなく、企業文化や働き方そのものを変革する経営戦略の一環といえるでしょう。

「会社に行きたくなる」を実現するオフィス設計

コクヨが新本社で最も重視したのは、「体験価値」です。現代のビジネスパーソンは、自宅でも十分な業務環境を整えられます。パソコンやモニターはもちろん、自分好みの椅子やデスクを用意している人も珍しくありません。そのため企業側は、「なぜ社員がオフィスへ行く必要があるのか」という問いに向き合う必要があります。
コクヨが導き出した答えは、「オフィスでしか得られない体験を提供すること」でした。新本社には以下のような空間が設けられています。
 ・社員同士が交流できるカフェスペース
 ・仕事後に利用できるバーエリア
 ・運動不足解消のためのジム
 ・子どもと一緒に過ごせるウェルネスルーム
 ・イベントや交流会ができる鉄板付きスペース
 ・リラックスできる読書エリア

一般的なオフィスでは見かけない設備も多くあります。しかし、これらは福利厚生のためだけではありません。社員同士の偶発的な出会いや、新しいアイデア創出のきっかけを生み出すための仕掛けなのです。

ABWが実現する自由な働き方

コクヨ新本社の大きな特徴の一つが、「ABW(Activity Based Working)」の導入です。ABWとは、仕事内容や気分に応じて働く場所を自由に選択できる働き方を指します。
例えば、
 ・集中作業は静かな個室エリア
 ・チームミーティングはオープンスペース
 ・アイデア出しはカフェスペース
 ・リフレッシュしながら考えたい時はラウンジ
というように、その日の業務内容に応じて働く場所を変えられます。従来型オフィスのように固定席へ縛り付けるのではなく、社員の自主性を尊重する考え方です。
特に知的生産性が求められる企業では、働く環境が成果に大きく影響します。移転を検討する企業にとっても、「何席必要か」だけでなく、「どのような働き方を実現したいか」を先に設計することが重要になっています。

オフィスは組織文化をつくる場所へ

コクヨでは以前から「ライブオフィス」という考え方を実践しています。これは、自社オフィスを顧客に公開しながら、新しい働き方を実際に試す取り組みです。その代表例が、東京・品川にある「THE CAMPUS」です。
同施設ではリニューアル後、社員エンゲージメント調査において「挑戦する風土」の評価が5年間で11ポイント向上したとされています。注目すべきは、オフィス環境の改善が単なる満足度向上ではなく、組織文化そのものに影響を与えている点です。

近年、多くの企業が人的資本経営を重視しています。人材の能力を最大限発揮してもらうためには、制度だけではなく環境も重要です。オフィスは単なるコストではなく、人材投資の一部として捉えるべき時代になっているのです。

世界的デザイン企業との協業が示す未来

今回の新本社では、GoogleやMeta、Netflixなど世界的企業のオフィス設計を手掛ける米国のデザイン事務所「Studio O+A」と協業しています。
世界の先進企業が共通して重視しているのは、効率性だけではありません。むしろ、偶発的な出会いやコミュニティ形成、創造性の向上や企業文化の浸透といった目に見えにくい価値を重視しています。コクヨの新本社も同様に、人と人、人と企業、人と街をつなぐハブとして設計されています。
特にグラングリーン大阪には多様な企業が集積しており、企業間の交流から新たなビジネスが生まれる可能性も期待されています。

オフィス移転を成功させるためのポイント

今回の事例から、バックオフィス担当者が学べるポイントは大きく3つあります。

① オフィスを経営戦略として考える

賃料や立地だけでなく、採用力やエンゲージメント向上への影響も考慮することが重要です。

② 出社する価値を明確にする

社員が「行かなければならない」ではなく、「行きたい」と思える環境づくりが求められます。

③ 交流が生まれる空間を設計する

偶発的なコミュニケーションは、イノベーションや組織活性化の源泉になります。単なる会議室や執務スペースだけではなく、多様な接点を生み出す仕掛けが必要です。

まとめ

コクヨの新本社は、「オフィスとは何か」という問いに対する先進的な回答の一つと言えるでしょう。テレワークが当たり前になった今、オフィスは単なる業務スペースではなく、企業文化を育み、人材を惹きつけ、イノベーションを生み出す場へと進化しています。
オフィス移転を検討する企業にとって重要なのは、面積や賃料だけではありません。そこでどのような体験が生まれ、どのような組織をつくりたいのか。コクヨの取り組みは、これからのオフィス戦略を考える上で大きなヒントを与えてくれる事例と言えるでしょう。

担当マーケターの視点

今回のコクヨ新本社の事例を見て感じるのは、「オフィスが企業ブランドそのものになっている」という点です。従来のオフィス移転は、コスト削減や増床といった不動産戦略の文脈で語られることが一般的でした。しかし現在は、人材獲得競争が激化する中で、オフィスそのものが採用マーケティングやエンゲージメント向上の重要なツールになっています。
特に印象的なのは、「社員に出社を強制する」のではなく、「出社したくなる体験を設計する」という考え方です。これは現代のマーケティングにおける顧客体験(CX)の発想と非常に近いものがあります。企業は顧客だけでなく従業員に対しても魅力的な体験を提供する必要がある時代になりました。今後は立地や設備だけではなく、「どんな体験を提供できるオフィスなのか」が企業価値を左右する重要な要素になるでしょう。コクヨの新本社は、その未来を先取りした象徴的な事例だと感じます。

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