オフィス移転時に見落としがちな「排煙設備」の基準と注意点とは?

オフィス移転時に見落としがちな「排煙設備」の基準と注意点とは?

ご自身が勤務しているオフィスで、排煙設備を見たことはありますか?また、火災時にその排煙設備をどのように使うのか知っていますか?排煙設備は命に関わる大切な設備ですが、日常的に使用しないため、存在に気づかない人が大半なのではないでしょうか。この記事では、オフィス移転時に見落としがちな、排煙設備に関する基礎知識と賃貸借契約や内装工事の注意点について解説します。
排煙設備についての理解を深めることで、スムーズなオフィス移転と安全なオフィス環境づくりの手助けとなるでしょう。

排煙設備の重要性


火災による死因で、最も多い「火傷」が36.5%、次いで「一酸化炭素中毒・窒息」が30.5%と言われています。
(参考:総務省消防庁|令和3年版 消防白書)
この結果から分かるように、火災時の煙は非常に危険です。ただし、しっかり管理された排煙設備が適切に作動すれば、消防活動の妨げになる煙を減らすことができ、火災の被害を大幅に減らすことができるでしょう。そのためには、建築基準法や消防法の規定を守り、排煙設備を適切に設置、点検することがとても重要です。

排煙設備の基礎知識

 排煙設備とは

排煙設備とは、火災による煙を効率よく室外に排出するための設備です。煙は、消火活動の妨げになることに加えて、一酸化炭素中毒・窒息など、命に関わる重大な危険を引き起こします。

排煙設備を設置する目的

  • 内部の煙を外部に排出して、避難者が安全な場所へ避難できるように補助する。
  • 内部の煙を外部に排出して、消防救助活動に支障がないように支援する。

排煙設備に関する法規

項目 建築基準法 消防法
目的 館内にいる人が安全に避難できること 消防隊員が安全かつ迅速に消火活動を行えること
適用範囲 建物の設計段階で適用 防火対象物としての用途や使用状況に基づき適用
基準内容 設置場所や開放面積の基準を規定 作動連動性や維持管理の基準を規定
点検義務 明確な点検義務はない 定期点検と総合点検の実施と報告義務がある
罰則 是正されない場合は、使用停止命令や罰金が科される 罰則規定が厳しく、命令違反に対する罰金が科される

排煙設備の種類

排煙設備があることで、フロア全体に煙を充満させず、人が煙に巻き込まれるまでの時間を稼ぐことができます。
オフィスビルで使用される排煙設備には「自然排煙」と「機械排煙」の2種類があります。それぞれの特徴は以下となります。

種類 自然排煙 機械排煙
排煙の方法 煙を浮力によって窓から排出する 機械を使って煙を強制的に排出する
適している建物
  • 中小規模な建物
  • 開口部の多い建物
  • 大規模建築物
  • 自然換気が難しい建物
排煙の安定性 低い 高い
作動方法 手動(火災時に作動忘れの恐れ) 自動(火災報知器などと連動)
費用 初期費用・維持費ともに安い 初期費用・維持費ともに高い
メンテナンス 殆ど必要ない 定期点検が必要

自然排煙

煙の浮力を利用して、窓や天窓から自然に煙を排出する方式です。排煙窓を設置するだけでよく、特別な設備が不要なため、コストもメンテナンスも最小限で済みます。
一方で、排煙窓の場所が分かりづらく、避難時に窓を開放しないままの可能性があります。解決策としては、避難訓練で排煙窓の位置を事前に確認し、排煙窓を開放する練習を行うと良いでしょう。自然排煙には以下の2種類がありますので、ご確認ください。

  • 手動による開放火災時に、窓を手で開けて煙を排出する
  • 排煙オペレーターによる開放火災時に、スイッチを押すことで離れた位置にある窓が開き、煙を排出する

機械排煙

排煙口から吸い込まれた煙が、排煙ダクトを通って排煙機から強制的に屋外へ排出される方式です。排煙ボタンを押すことで作動するタイプと、火災を検知した際に自動的に作動するタイプがあります。機械を使うため安定して排煙を行えますが、停電時の予備電源やダクトが必要なため、費用が高い傾向にあり、メンテナンスの手間がかかります。
機械排煙設備には以下の3種類の方式がありますので、ご確認ください。

  • 排煙口方式
    排煙口が開き排煙するシンプルな方式で、最も採用が多い方式です。
    他の方式と比べると少し安全性は落ちますが、シンプル構造のため、スペースをあまりとりません。
  • 加圧排煙方式
    排煙口方式での排煙に加えて、新鮮な空気を室内に送り込むことができます。
    火災になっていない場所に、新鮮な空気を供給できるので、一酸化炭素中毒や窒息のリスクが下がります。
    排煙と給気を行う複雑な構造ですが、安全性が高く、避難が難しい高層ビルなどに向いた排煙方式です。
  • 天井チャンバー方式
    「天井チャンバー」という箱型の空間に煙を溜め、溜めた煙を吸い出して屋外に排煙する方式です。
    排煙口方式に比べて煙が戻ることが少なく安全性が高いです。
    ただし、天井チャンパーは設置スペースをとるため、設置場所を選びます。

賃貸契約時の確認ポイント


賃貸契約を結ぶ際、排煙設備の状態を確認することが重要です。以下のポイントをチェックしましょう。

オフィスビルの排煙設備が建築基準法に適合しているか?

賃貸借契約をするフロアや区画に、適切な排煙設備が備わっているか確認しましょう。築年数のあるオフィスビルでは、現在の建築基準法の基準を満たしていないケースも少なくありません。

排設備煙の設置が必要な条件

  1. 3階建て以上で延べ面積が500㎡を超えるオフィスビル
  2. 延べ面積が1,000㎡を超えるオフィスの200㎡以上の居室
  3. 排煙上の窓がない居室
    ※上記1、2は高さが31メートル以下の部分で100㎡以内ごとに防煙壁で区画された居室は除きます。

排煙設備の設置基準

  1. 部屋のどの地点からでも、排煙口までの距離が30m以内にする
  2. 床面積が500㎡を超える場合は、区画ごとに防煙設備を設ける
  3. 部屋の床面積に対して、1/50以上の排煙開口面積が設ける

メンテナンスは、どのように行われているのか?

機械排煙設備は1年に1度点検する必要があります。点検の項目は、「排煙機の設置状況や排煙風量」「排煙口周囲の状況や排煙風量」「排煙ダクトの劣化や損傷」などです。
事前に、オーナーや管理会社に問い合わせ、排煙設備が定期的に点検されているかを確認しておきましょう。

管理責任はテナントにあるのか?

排煙設備の維持管理責任が「オーナーとテナントのどちらにあるのか?」を契約書で明確にしておきましょう。一般的に、建物全体の排煙設備はオーナーの管理とされています。
しかし、その工事が排煙経路や設備に影響を与えるテナント工事の場合は、テナント側で改修費用を負担するケースがあります。排煙設備に関する責任範囲は契約内容によって異なりますので、必ず確認しましょう。

内装工事によって排煙設備にあたえる影響はあるのか?

内装工事やレイアウト変更を予定している場合、それが排煙設備の稼働に影響を及ぼすのか確認が必要です。
内装工事については、次の章で解説します。

内装工事時の注意点


内装工事の設計や施工内容によっては、排煙設備の機能が損なわれる可能性があります。
そのような事態にならないように、以下の項目を念頭に入れて内装工事を計画してください。

間仕切りや天井の設置による影響

影響①:排煙口までの距離が30m以内である

部屋のどの地点からでも、排煙口までの距離が30m以内にする必要があります。
オフィスのレイアウト変更で新たに間仕切り壁を作る場合は、排煙口までの距離に注意しましょう。

影響②:床面積500㎡以内ごとに防煙壁で区画する

煙がビル全体に広がらないためにも、煙の拡散を防止して排煙効率を良くすることが重要です。
そのために、床面積500㎡以内ごとに防煙壁で区切る必要があります。
防煙壁は間仕切り壁、もしくは、天井面から50センチ以上を下方に突き出した垂れ壁にしなくてはいけません。
間仕切り壁や垂れ壁は、不燃材料で構成されているか、不燃材料で覆われたものにして下さい。

影響③:床面積に対して1/50以上の排煙開口面積

窓や天窓の有効開口面積が、部屋の床面積の1/50以上を確保する必要があります。
改修工事によって窓を塞がないようにしましょう。

排煙経路の確保

天井裏を共有している建物では、排煙経路が天井裏を通じて確保されている場合があります。
天井の改修工事よって排煙経路を遮断された場合は、排煙ダクトやファンの設置場所の変更を余儀なくされる場合があります。
ただし、排煙ダクトの延長など大規模な工事が必要になる可能性があり、高額な費用がかかるケースや、構造的に困難なケースがあります。

消防署や専門家との連携

内装工事が排煙設備に与える影響を最小限に抑えるためには、専門家の意見を取り入れることが重要です。
例えば、工事内容が消防法基準に適合しているか、工事前に消防署へ確認を行いましょう。
または、排煙設備に詳しい建築士や消防設備士に依頼し、工事計画段階から適切なアドバイスを受けることが有効です。
消防署の指導に従わない場合、工事後に是正命令が出る場合があるため、必ず事前に相談を行いましょう。

工事完了後の点検

工事完了後に排煙設備が正常に作動するかを必ず点検してください。機械式排煙設備の場合は、火災による停電でも作動する非常用電源の作動確認を行います。
配線変更や電源の遮断がないように施工時に注意が必要です。
内装工事後には、消防署による完了検査が行われます。この検査では、排煙設備が法令基準を満たしているか確認されます。
不適合の場合、追加工事や修正が必要になるため、事前準備が大切です。煙を効率的に排出できるかを確認し、消防署に提出する点検報告書や工事記録を適切に保管し、必要時に提示できるようにします。

防煙設備の不適合例と遵法性調査


この章では、防煙設備に関して建築基準法の不適合になった例を紹介し、それを避けるための遵法性調査について解説します。

防煙設備の不適合例①:防煙壁の撤去

例)新テナントの入居に伴い、そのテナントスペースを大きくとるために既存の防煙壁を撤去した。
例)建築基準法にある、床面積500㎡ごとに防煙壁で区画する規定を満たせず不適合となった。
この規定を満たさない場合、火災時に煙が建物全体に広がり、安全が損なわれることになります。

防煙設備の不適合例②:排煙口を塞いだ

例)内装レイアウトを変更する際、排煙口の一部を塞いでしまったことで、排煙口までの距離が基準(30m以内)を超えてしまった。
例)建築基準法では、部屋のどの位置からも排煙口までの距離を30m以内に抑えることが定めれれているため、規定を満たせず不適合となった。
この基準を超えると、火災時に煙が適切に排出されないリスクがあります。

遵法性調査とは?

建物や内装工事が建築基準法や消防法などの、関連法令に適合しているかを確認するための調査です。防煙設備に関連する不適合を防ぐためには、改修工事前に遵法性調査を実施し、法令適合性を確認することが必要です。具体的には以下の流れで進めます。

  1. 現状確認
    防煙壁や排煙設備の現在の配置と状態を確認し、基準を満たしているか点検します。
  2. 改修計画の検討
    改修工事が現在の排煙設備に与える影響を確認して、修正案が必要な場合は作成します。
  3. 設計図書の確認
    設計段階で防煙設備に関する基準を満たしているか確認します。
  4. 関係機関との協議
    消防署や建築主事と相談し、法令適合性を確保します。
  5. 完成後の確認検査
    工事後に排煙設備が正常に機能し、基準を満たしているかを検査します。

遵法性調査を怠った場合のリスク

遵法性調査を実施せずに防煙設備の不適合が放置されると、以下のリスクが生じます。

リスク①:是正命令の発行

消防署や行政機関から改善命令が出され、追加工事が必要になります。

リスク②:罰則や罰金

法令違反に対して罰則が科される場合があります。

リスク③:テナントの安全性低下

火災時に煙の滞留が発生し、避難や救助が困難になる恐れがあります。
オフィス改修による防煙設備の不適合は、法令違反だけでなく入居者の安全性にも直結する重大な問題です。
遵法性調査はこれらのリスクを防ぎ、安全で合法的な内装工事を実現するための不可欠なものです。

まとめ


排煙設備は、普段あまり意識されない存在でありながら、火災時の安全性を左右する重要な設備です。
オフィス移転を検討する際には、契約前の確認から工事後の適合性検査まで、徹底した準備と管理が求められます。
専門家のアドバイスを活用し、法令を遵守した上で排煙設備を整備することで、従業員の安全と快適な職場環境を実現できます。
この記事で紹介したポイントを参考に、安全で効率的なオフィス移転を成功させましょう。、安全で効率的なオフィス移転を成功させましょう。

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