ハイブリッド時代のオフィス戦略|「出社する意味」を再定義する移転成功のポイントとは

「出社する意味」を再定義するオフィス移転戦略とは


ハイブリッドワークが定着した現在、オフィス移転は単なるコストや立地の見直しではなく、「なぜ出社するのか」という本質的な問いに向き合う機会へと変化しています。特にバックオフィス部門においては、生産性の維持だけでなく、組織力や人材育成といった中長期的な視点でオフィスの役割を再設計することが求められています。
その中で注目されているのが、伊藤忠インタラクティブのオフィス移転事例です。同社は移転を機に「出社する意味」を再定義し、創造性とエンゲージメントの向上を実現しました。本記事では、その取り組みから、これからのオフィス移転における重要なポイントを解説します。

従来オフィスの課題と移転の背景

同社の旧オフィスは、駅からのアクセスが悪く、固定席中心のレイアウトで変化に乏しい環境でした。コロナ禍以降は週2日出社のルールを導入していたものの、リモートワークの浸透により「出社の必要性」が曖昧になっていました。特に課題となっていたのが以下の3点です。

  • 部門間のコミュニケーション不足
  • 若手社員の育成機会の減少
  • 企業文化の希薄化

チャットやオンラインツールでは補えない「偶発的な会話」や「空気感の共有」が不足し、組織としての一体感が弱まるリスクが顕在化していたのです。

コンセプトは「カオス」と「未完成」

こうした課題を解決するため、同社はオフィス設計において「カオス(異素材の融合)」と「未完成(余白)」という2つのコンセプトを掲げました。多様な職種(エンジニア・デザイナー・コンサルタント)が共存する同社においては、異なる価値観やスキルが交わる環境こそが競争力の源泉です。そのため、あえて統一しすぎない「カオスな空間」を設計することで、新たなアイデア創出を促進しています。また「未完成」という考え方は、オフィスを固定化せず、社員自身がアップデートしていく余白を残す設計です。実際に社員が空間に手を加えることで、オフィスが“使う場所”から“育てる場所”へと変化しています。

ABW導入による働き方の進化

移転後の大きな特徴が、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の導入です。これは業務内容に応じて働く場所を選択する働き方で、オフィス空間を以下の3つに分類しています。

  • オープン(交流・コラボレーション)
  • ワーク(通常業務)
  • クワイエット(集中)

このゾーニングにより、「どこで働くか」ではなく「何をするか」に応じた行動が促され、フリーアドレスの形骸化を防いでいます。さらに、電源配置や動線設計まで細かく設計し、ストレスのない環境を実現しています。これにより、社員が自然に場所を移動し、結果としてコミュニケーションが活性化する仕組みが構築されています。

オフィス移転による具体的な成果

新オフィスへの移転により、同社では以下のような変化が見られました。
まず、コミュニケーションの質が大きく向上しました。従来は部門間の情報が分断されがちでしたが、オープンな空間設計により自然な情報共有が生まれています。また、社員のエンゲージメントや創造性も向上しました。環境の変化が心理的な変化を促し、「受動的に働く」から「能動的に働く」へのシフトが起きています。さらに、採用面でもポジティブな影響が見られています。来訪者がオフィス環境に魅力を感じることで、企業ブランディングの強化につながっています。

バックオフィス担当者が学ぶべき3つのポイント

この事例から、オフィス移転を検討するバックオフィス担当者が押さえるべきポイントは以下の通りです。

  1. 出社目的の明確化
    単なる業務の場ではなく、「コミュニケーション」「育成」「文化醸成」の場としての役割を設計することが重要です。
  2. 空間に“余白”を持たせる
    完成度を高めすぎず、変化に対応できる柔軟性を残すことで、長期的に価値を維持できます。
  3. 働き方と空間をセットで設計する
    ABWのように、運用ルールと空間設計を一体で考えることで、オフィスの効果を最大化できます。

まとめ

オフィス移転は、単なる場所の変更ではなく、働き方と組織の在り方を再定義するプロジェクトです。今回の事例は、「出社する意味」を再設計することで、組織力そのものを強化できることを示しています。これからのオフィスは、「働く場所」ではなく「価値を生み出す場」として設計することが、企業競争力の鍵となるでしょう。

担当マーケターの視点

今回の事例で特に注目すべきは、「オフィス=プロダクト」として設計されている点です。従来のオフィスはコストセンターとして扱われがちでしたが、伊藤忠インタラクティブの取り組みは、オフィスを「エンゲージメントを高めるメディア」として機能させています。これはマーケティングにおける顧客体験設計(CX)と非常に近い考え方です。社員を“内部顧客”と捉え、体験価値を設計することで、結果として生産性や定着率、採用力といったKPIに波及しています。また「未完成」という概念は、ユーザー参加型プロダクトに近く、社員が関与することで愛着とロイヤリティが高まる構造です。今後のオフィス戦略においては、単なる設備投資ではなく「体験設計」としての視点を持つことが、競争優位性を生む重要な要素になると考えます。

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